「よく桜の泣き声がわかりましたね」
「紀之さん聞こえなかったの?」
逆に不思議。
だってはっきり聞こえたもの。
「家の外にいたんですよ。聞こえるはずないでしょう」
そう言われたら
そうなんだけど……。
「でも聞こえたの」
それしか言えない。
彼は不思議そうに「テレパシーかな」って言い微笑んだ。
そうだね
テレパシーかもしれない。
しかし
このお姫様抱っこ状態は恥ずかしい。
「紀之さん」
「はい?」
「下ろして。横に座るか……」
「ダメです!」
却下されてしまった。
だからそのまま
恥ずかしいけど
私は彼に抱かれて話を続ける。
「私が悪かった。桜ちゃんも紀之さんも、私を信じてくれているのに、私は杏奈さんの言葉を信じて、ひねくれていじけて、桜ちゃんを傷付けた。今度からもう杏奈さんの言葉は無視して、頭に入れない!話は聞かない!」
元気に顔を上げると
端整な顔が嬉しそうにうなずく。
顔がいいと近距離はやっかいだ。
恥ずかしくてまた下を向く。
「いつもの郁美さんに戻った」
その優しい声も、いつもの彼だった。



