「もうそれは届いているよ」
紀之さんは桜ちゃんの頬の涙を指で払う。

「桜がお母さんに相談して、いくちゃんママに凄いスピードで届いたよ。だから大丈夫。桜がいくちゃんママの事が大好きってもうわかってる」

「ほんとう?」
涙が止まった丸い目が、また丸くなる。

「うん。ちゃんと届いたよ。私も桜ちゃんが大好き、だから安心しておやすみなさい」

私は桜ちゃんを抱きながら、そっと布団の中に入りシングルベッドでふたりくっついて横になる。

「おやすみ」
紀之さんは優しい声で私と桜ちゃんに言い、静かに部屋を出て行った。

私は桜ちゃんを抱きしめながら、二つほど昔話を聞かせて桜ちゃんを寝かせる。

小さな身体が愛しい。

ごめんなさい。桜ちゃん。

私が亡くなった奥さんと同じ土俵に立つ事が、最初から間違っているんだ。
冷静に考えると
桜ちゃんがお母さんを恋しくて、名前を呼んで当然って思わなきゃいけないのに。

杏奈さんに惑わされた
いや
自分の心がひねくれていたのだろう。

大好きな人達を信じないでどうすんだ。

私のバカ。

達也まで巻き込んでしまった。

偶然あそこにいた達也が悪い!……って事にしようか。

いや
今度会ったら心配かけたって謝ろう。

まずは
あらためて
謝らなければいけない人がいる。


私は桜ちゃんを起こさないようにベッドから起き、階段を下りる。