紀之さんの目の前で
達也の胸に抱かれている私。
ためらいながらも
きっと私を待ってられなくて
走って追いかけて来てくれたのだろう。
上着もなく
寒空の下
彼は達也から目を離さず
怖い顔で見つめていた。
私は達也の胸から飛び出そうとしたけれど、達也は紀之さんの顔を見て、余計に力を入れて私を抱く。
「幸せにするって言ってたけど?何を泣かせてんだよ」
強く責める口調だった。
「達也君には関係ない。いいから離せ」
静かに怒って彼は言う。
「関係ないって?昔から好きで大切にしていた女が、どうして泣いてるのか?理由を聞かせてくれてもいいんじゃない?」
「達也!」
私は思いきり力を入れて、彼の胸から離れる。
三者三様。
冬の星座の下
三角形で繋がっている。
「郁美とは昔からの仲で、今も俺にとって大切な女だ。郁美があなたを選んで、あなたも郁美を幸せにするって言ってくれたから、俺はあきらめた。それを忘れないでほしい」
真剣な顔で達也が言うと、紀之さんは「幼なじみって……やっかいですね」と、小さな声でそう言った。
紀之さんには達也。
私には杏奈さん。
きっとそれは
同じ存在なんだろう。
杏奈さんは遠くにいるけれど
達也はこんなに近くにいる。
彼にとって達也は、私にとっての杏奈さんのように、嫌な存在かもしれない。
達也が近くにいるだけで
もしかしたら
紀之さんは心配かもしれない。
でも
彼は、私を信じてくれている。
私も彼を信じなきゃいけないでしょう。
杏奈さんに
惑わされてはいけないのに。



