隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話

「ごめん……」
紀之さんは苦しそうな声を出し、そっと私を胸に抱く。

「本当にごめん。今まで、ずっと桜には僕しかいなくて、僕が全部ひとりで背負うくせがついていて……ごめん。悪かった」

その胸が温かい。

「郁美さんは家族だ。悪かったね、ひどい事言って」
一度強く抱きしめてから
優しく離し、私の頬に流れる涙を指で払う。

「ごめん」
その声は心からの声であり、荒立った私の心に沁みる。

「ちょっと下で話をしよう」

優しく言われ、うなずき
「先に降りていて、桜ちゃんの顔を見てから行く」
涙声を押さえるように言い、彼は私の髪を撫でてから下に降り、私は桜ちゃんの部屋に静かに入る。

小さな灯りがほのかに部屋を照らし
桜ちゃんはベッドで寝ていた。

傍に近寄り
柔らかい頬を撫でる。

ごめんね。
ごめんなさい桜ちゃん。

傷付けてごめんなさい。
ママ失格でごめんなさい。

愛しい小さな存在に、心から謝りずっと頬を撫でていると。

「……おかあさん」

桜ちゃんの小さな唇が動いた。


お母さんは

私じゃない。

亡くなった奥さんを指す言葉。