嬉しそうに手裏剣を撫でていると、紀之さんに笑われてしまった。
「なんで笑うの?」
「いや……可愛いなぁって」
「すぐそうやってバカにする」
「バカにしてない」
今度は正面からギュッと抱かれてしまった。
「溺愛してるだけ」
堂々と言われると超恥ずかしい。
「離して」
「いやだ」
「悪代官め」
「何とでもどうぞ」
おのれ。いつも私をからかって。
「忍者さん助けて下さい―。悪い人に襲われてますー!」
彼に抱かれたまま
大きな声を台所の外に向けると
階段をバタバタっと走る音が聞こえ、愛犬と共に桜ちゃんがやってきた。
「いくちゃんママをはなしなさい!」
ちびっこ忍者は紀之さんに向けて手裏剣をまとめて投げ、彼はそれを受けながら大げさな叫び声を上げて台所から逃げて行く。
「忍者さんありがとう」
私がお礼を言うと、桜ちゃんは一礼してまた去ってしまった。
小さな手裏剣が床に散らばる。
悪代官をやっつけてくれて
ありがとう忍者さん。
さてさて
来年はどうなのかな。
来年もまた来てくれるかな。
いつまで修行してくれるかな。
楽しみにしてる私です。
【完】



