「忍者はもう来ました?」
愛する旦那様がやってきて、許可も無くさつまいもの天ぷらを手にするので
「天誅でござる」と、その手を叩く。
「天誅って何?」
叩かれた手を振って苦笑いする紀之さん。
どんな時でも優しい顔してるなぁ。
もちろん性格に惚れて一緒になったんだけど
その顔も好き。
顔が好きってヤバいよね。
絶対私の負けだもの……本人には言わないけど。
「うーん。雰囲気で言ってみた」
「雰囲気ね。何か手伝う?」
「いいよ。天丼だから揚げたらすぐ終わるもの、どしたの急に?」
不器用な人が珍しく手伝うなんて。
「僕が食べたいって言ったから、郁美さんに無理させたかなーって思ってさ」
照れた笑顔が桜ちゃんに似てる。
親子だね。
「うん。無理したよ。だから次の日曜の昼はカップめんにする」
「それもいいね」
そして負けずにさつまいもを狙って口にし
私の身体を後ろから抱きしめた。
「悪代官に捕らわれた気分」
さりげなく言うと
「悪代官ってひどいなぁ」
彼の手が下がりエプロンのポケットに重なって、私は桜ちゃんからのプレゼントを思い出した。
「ちょっと休憩」
紀之さんの手を振り払いポケットに手を入れたら
あらら
なんて可愛らしい手裏剣(しゅりけん)
オレンジ色の折り紙で作った
小さな手裏剣。
一生懸命作ったんだね。
また宝物が増えてしまった。



