「お願いだから離れて。みんながきっと見てるから」
ご近所中集まってるんだから
明日から
どんな顔でゴミ出しすりゃいいんだよ。
「嫌だ。ずーっと離れない」
余計に力が入ってしまう。
もう
困ったなぁ。
ぐったりと下を向くと
「郁美さん」
「……なに?」
「結婚してくれてありがとう」
さっきまでのハイテンションを抑え
彼は優しい声でじんわりと言う。
「僕と桜の家に来てくれてありがとう。家族になってくれてありがとう」
緩められた腕の中
静かに私は顔を上げる。
「好きだよ」
そっと重なる唇は誰にも止められない。
「桜ちゃん。見ちゃダメよ!」
遠くから葵ちゃんの声が聞こえた
後の大騒ぎは……まぁいいか
この一瞬の貴方とのキスが
他の何よりも大切だから
全ては後から考えよう
紀之さん
私も貴方が大好きです。
家族にしてくれて
ありがとう。
【完】



