「どんな顔をしても可愛い」
そう言いながら彼は私の身体を抱き寄せた。
ちょ!ちょっと!
人が……人がいるでしょう!
その力は思ったより強く
小さなベンチに座ったまま
しっかり捕獲された私。
酔ってる酔ってる
田辺紀之
顔には出ないけど
酔ってるーーー!
「もう僕は郁美さんと桜が可愛くて可愛くて。もう最高に可愛くて自分でも困っちゃうくらい可愛くて」
「のっ……紀之さん。人前だから」
ジタバタと彼の腕の中でもがく私。
「ほんっとーーーに!可愛いっ!」
お願いだから叫ばないで
背中にたっぷりと色んな視線を感じてるんですけど。
葵ちゃんのニヤニヤ視線
幼なじみの銀行マンの冷たい目線
そして
うちのヤーさん顔した親父の
怖い顔。
あぁ振り返りたくない。
「大好きですよー郁美さんー!」
ぎゅーっとハグして
ユラユラ私の身体を揺らしてる。
桜の花びらが笑うように舞い落ちる。
桜に酔ったか
人に酔ったか
お酒に酔ったか
午前中の疲れに酔ったのか
私の夫は
ヘロヘロになってます。



