「座りましょう」
桜の樹の下
小さなベンチに2人で座り
みんなの楽しそうな様子を見て心を和ませる。
「郁美さん覚えてる?」
ハラハラとピンク色した花びらが
ゆっくりと舞いながら私の髪にキスをする。
「出会った頃、郁美さんのお店で僕と桜の歓迎会をしてくれたでしょう」
彼の長い指が
そっと桜の花びらを払う。
そういえば
あったね
残った料理をタッパに入れ
喜んで持って帰った彼の姿を思い出して笑ってしまった。
「嬉しかったんです」
髪に触れたその指が
静かに頬に流れた。
しなやかなその指に愛撫された私の頬は
桜と同じ色となる。
「とっても嬉しかったから。絶対みなさんにこの恩をお返ししようって心に決めてた」
「だから花見?」
「そう」
彼の指が
私の唇を優しく撫で
穏やかな笑顔で人の顔を覗き込む。
「僕はとっても嬉しかった。不安だったんですよ。桜とふたり。知らない土地で知らない人達に囲まれて過ごすのが。でも皆さん優しくて……ついでに可愛い人と巡り合えた」
「ついで?」
ふざけて頬をふくらませると「桜と同じ顔ですね」って笑った。
彼は少し酔ってる。
私も酔ってる
桜と彼に
酔っている。



