「郁美さん!見て見て!」
背中で夫が叫んでいる。
振り返りたくない
夫より桜ちゃんを連れてきた方が役に立ったかもしれない。
桜ちゃんはチョコと一緒に我が家でお留守番。
紀之さんの親友である
イケメン人気作家の相川先生宅に住み込みで働いている、スーパー家政婦の葵ちゃんと一緒にお留守番中。
家事も完璧な葵ちゃん。
相川宅のゴミ屋敷をピカピカにして、相川さんの食生活を直し、ついでに人間性も直したというスーパー家政婦。
桜ちゃんとは仲良しなので
今日のお留守番を『喜んで』とひとつ返事で答えてくれた。
『台所を使っていいなら、桜ちゃんにお昼ご飯を食べさせますね』って……神の声。
ずっと居てほしい。
そして
田辺紀之の人間性も少し直して欲しい。
「郁美さん。これ買いましょう」
楽しそうな彼が指差す方向を見ると
あー……いいですね。
ツリーハウスですか。
大きな森の木をイメージしてますねー
猫カフェで見ましたねー
うちのチョコさんは木登りできるのでしょうかねー
それは
猫専用だと思いますよー
「楽しくないですか?チョコと桜がこれで遊ぶのって」
気分を上げて言ってます。
はいはい。楽しいです。
あなたの存在が楽しいです。
「そういえば……うちの桜の樹って今が見ごろですよね」
ツリーハウスから我が家の桜を思い出す紀之さん。
うん。
いい感じで咲いてるね。
とってもとっても綺麗だよ。
私はずーっと隣の家の桜に魅了されていた。
今は人間の桜ちゃんにも魅了されている
そしてそのお父さんにも。



