そして紀之さんは
命を飼う責任を桜ちゃんに諭す。
桜ちゃんは紀之さんに諭され
負けて終わる。
私は犬が好きだ。
猫も好き。
育った家が飲食店だったから、頑固親父の反対でペット禁止令が出ていたのであきらめる。
「リュックをおへやにおいてきます」
さっきまでの元気はどこへやら
トボトボと元気なく二階に上がる桜ちゃん。
気の毒になってしまう。
「紀之さん?」
「何ですか?」
「あそこまで桜ちゃんが言うのだから飼ってみない?ここの家は広いし、散歩に連れて行くと私達も歩くから運動不足解消になるし、規則正しい生活が……」
にらまれた。
優しい顔は怒ると怖い。
私も負けて一歩下がる。
雰囲気が悪いのを感じてか
紀之さんは台所に立ち
美味しいケーキに合わせたコーヒーを用意する。
台所で
肩と肩を重ねる。
「僕が臆病なんですよね」
切なそうな声が台所と私の胸に響いてしまう。
紀之さんは
命を失うのが怖いんだ。



