隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話


「桜ちゃん!」

私は「ごめんなさい。すいません」って、謝りながら人混みをかき分けて前に進む。

背中で紀之さんが「郁美さん!」って私の名前を大きく叫んでたけど、もう私の頭は桜ちゃんでいっぱい。

あぁどうしよう
桜ちゃん。
どこにいるの?
どこに行った?

小さいから見えない。

どうしよう
人混みに紛れて
誘拐されたらどうしよう。

小さいから
クルクルって布に巻かれて
運ばれてもわからないよ

外国に売られたらどうしよう

悪い人に誘拐されたらどうしよう。

あちこち人にぶつかりながら
ブツクサ言われて
頭を下げながら小さな女の子を探して前に行く。

桜ちゃん!

どうか無事でいて!

半泣きになって探してたら

「……ちょ、ごめん純哉」
舞台の上でブループラネットのネタが中断し
若い女の子達が騒ぎ出す。

ふと舞台を見ると
仔犬系ツッコミの亮平君の方が観客席にズンズン歩き、にっこり笑って「よいしょ」と何かを抱き上げた。

さっ……桜ちゃん?

亮平君は桜ちゃんを軽々抱き上げて、また舞台へと戻った。

「人混みの迷路に入ったお姫様発見。きっと迷子。さぁお名前は?」

亮平君に抱かれたまま
桜ちゃんは大きな声で返事する。

「たなべ さくらです。一年生です。お父さんといくちゃんママと来ました」

元気で可愛い返事に会場が湧く。

桜ちゃん
無事だった。
ヘナヘナと崩れそうになる私を、いつの間にか後ろに来ていた紀之さんが支える。