「お母さん。おこったかなぁ?」

不安そうな顔で桜ちゃんが私に言う。

はっ!
こんな崩れている場合ではない。

私は桜ちゃんをよいしょと抱っこして、ソファに座って髪を撫でる。

「大丈夫だよ。今、桜ちゃんのお父さんがお話してるから待って……」

話をしていると
当の本人が廊下から顔を出す。

「すいません郁美さん。話をつけてくるので、桜をお願いしていいですか?」

いいですか?
そう聞きながら返事を待つ気もなく、言い残してまた行ってしまった。

玄関先から争う声が聞こえる。

ギュッと桜ちゃんが抱きついてきた。
きっと話は長くなりそうだ。

「桜ちゃん。お風呂入った?一緒にお風呂に入ってさ、トランプしてから一緒に寝よう」

「いくちゃんと?」

「うん。お泊りだ!」

桜ちゃんに3分で戻ると言い
豪邸の裏口からそっと出て、自宅へ戻り
きっかり3分で着替えを持ってまた参上。

約束通り
桜ちゃんとお風呂に入って
トランプをして
桜ちゃんのベッドでふたりで寝るには狭いから、彼の寝室のダブルベッドでふたりで就寝。

私まで寝てしまうかも……いいや。

「いくちゃん?」

「なぁに?」

「お父さんとけっこんするの?」

ドキリ。
心臓に悪い質問を桜ちゃんにされてしまった。

「それは……」
彼のように上手く返事ができないでいたら

「さくらのおうちにきてくれたら、さくらとお父さんといっしょにこのおうちにきてくれたら、さくらはとってもうれしいです」

「桜ちゃん」

「いっしょにごはんたべて、おふろにはいって、三人がいいです」

小さな身体が私に抱きつく

「さくらのお母さんは、さくらがあまりいい子じゃないから、さくらのことがスキじゃなかった。おえかきもおりがみもヘタだったから、さくらのことがスキじゃなかった」

震えて泣いてる。
こんなに小さいのにいっぱい傷付いたんだね。