「ママと一緒に住みましょう」
彼女は
今までにない優しい声を出す。

「おひっこし?」

「そうよ」

「ずっとお母さんといっしょ?」

「そうよ桜」
彼女の声が徐々に弾んできた

そして彼は
青い顔をして表情も無い。

桜ちゃんは彼女の胸の中で幸せそうな顔をしていた。

そんな顔しないでほしいけど……私にそんな権利はない。
本棚にあるピンクのアサガオを思い浮かべて、慌てて打ち消す。

桜ちゃんは折り紙ではない
クシャクシャにはならないのに。

「ママと一緒。何でも買ってあげる」
彼を挑発するように彼女が言うと

「お父さんは?」
桜ちゃんが彼の姿を探す

「パパは来ない。だってこの人と結婚するのでしょ。パパにはこの人がいるからいいの」

ひどい

どうしてそんなひどい事言うの!
今度は私の顔が青くなる。

「お父さん、いくちゃんとけっこんするの?」
桜ちゃんは本当にビックリして彼女の腕から飛び出した。

田辺さんは……この人は……困った人で

いくら子供でも

嘘がつけない人だった。

彼は私の顔を一度見てから
桜ちゃんの前に腰をかがめ目線を合わせ
まっすぐ自分の娘を見て

「そうしようと思ってる。でも桜が嫌ならすぐはしない。桜がもう少し大きくなってからにする」

誤魔化さずに言い切った。