「いくらほしいの?」

静かに言われた。
その非情なる言葉に背中が凍る。

「考えてもみて、私はあなたに感謝されてもいい立場なの。紀之さんと一緒になりたいんでしょ、桜が邪魔じゃない?連れ子よ。桜がいなかったらあなたは彼と二人きりで過ごせるの」

田辺さんとふたりきりの生活。

「私の恋人が心の広い男でね、お金持ちだし桜に不自由はさせない」

「お金の問題じゃない。愛情の問題でしょ」

「それなら桜に聞きなさい。桜にとって私は実のママなの。本当の母親。他人にとやかく言われる筋合いはない」
ヒステリックに言い残し
彼女は車に乗って去る。


置かれた私。


他人の私。


桜に聞きなさいって

それが怖くてできないから
彼も私も困ってるのに。

いくら私達が引き留めても
実のお母さんの所へ行きたいって言われたら

私達には止める権利はない。

お母さんに会えて
大喜びの桜ちゃん

泣きながら母親にしがみついた顔がまた頭に浮かんでくる。


いつの間にか力を入れている手の中で

ピンク色したアサガオが気のせいか熱くなる。

他人……。

寂しい言葉だけど

事実の言葉。