「美味しかった?よかったね」
顔を近づけて笑って言うと

「パンケーキはね、お母さんとよそのおじさんとたべたの」

よそのおじさん?

「お母さんのコイビトで、さくらを『カワイイね。いっしょにすもうね。パパってよんでいいよ』っていってたよ」

パパ?
再婚相手予定の男を呼んで
桜ちゃんに会わせたのか。

何も心の準備もないのに?
ふたりっきりで会えると思ってたのに?

それはないでしょ
軽い怒りが湧いてくる。

「お母さんはおじさんとなかよしで、ずっとおはなししてた。さくらとおはなしするより、たくさんおはなししてた」

イメージはできる
桜ちゃんを無視して
目的の男性に甘える彼女はわかりやすい。

その時の桜ちゃんを思うと
哀しみが痛いくらいに伝わりそう。

きっと連れて行かれたパンケーキ屋さんも、子供には心地悪そうな高い店だろう。

会ったばかりのお母さんと
楽しく過ごそうと思ってたのにね。

あんなに楽しみにしてたのに。

「さくらはちょっとつかれました」

桜ちゃんは小さく言い

目を閉じて電池切れ。

気を張ってたんだろう。
かわいそうに。

「今日が楽しみで、寝不足気味で」

田辺さんがコーヒーを持って私に渡す。

何も言わずふたり揃って
桜ちゃんの寝顔をジッと見てしまう。

「桜を早く引き取りたいって言ってました」

私と目を合わさないのはこんな理由か。

「また近いうちに来るようです」

重い気分のまま
ふたり会話も無く
ブランド服に囲まれた桜ちゃんを見ていた。