玄関前で息を整え
なるべく
普通を装い「ごめんくださーい」と、大きな声で居間に行くと
「いくちゃんだ」
桜ちゃんは沢山のブランド紙袋に囲まれて、お姫様のようにソファに深く座っていた。
「いらっしゃい」
疲れた顔で彼が言う。
気になって仕方なかったんでしょう。
「お母さんとお出かけは楽しかった?」
向かい側に座り
桜ちゃんに聞くと「うーん」って天井を見てから「いっぱいかってもらったよ」そんな返事。
元気で明るかったけど
賢い桜ちゃんにしては
的外れな答えだった。
「おようふくを、たくさんかってくれたよ」
桜ちゃんの服装もいつもと違う。
いつもの動きやすく活動的な服ではなく
デザイン重視のお洋服。
黒いスカートにシルバーのブラウス。
桜ちゃんの黒い服
初めて見るかも。
フリルがあって
可愛いといえば可愛いけど
いつもの方が可愛い。
高そうだな。
「クリームがいっぱいのってる、パンケーキもたべたんだよ」
でも嬉しそう。
身体をいっぱい使って
美味しいパンケーキを食べた事とか
沢山服を試着した事とか
教えてくれた。
楽しかったんだ。
よかった。
ホッとして田辺さんを目で追うと、彼は私と目を合わせなかった。
どうしたの?何かあった?



