「桜が道具のように利用されるのは嫌だ」
私が傍にいて安心したのか
田辺さんは大きな身体をズルズルと溶かし、ソファの端に座っている私の膝に頭をのせ、身体を横たえる。
足がはみ出してるよ。

「疲れた……」
目を閉じて大きなため息。

私は膝枕をしながら
彼の柔らかい髪を撫で考える。

桜ちゃん。
お母さんに会えて喜んでいた。
嬉しくて嬉しくて
抱きついて泣いていた。

恋しかったお母さん。

どんな母親でも
桜ちゃんにとっては
大好きなお母さん。

でも
あの女性は桜ちゃんに対する愛情はない。
再婚相手にしか気持ちはない。

このまま
彼女が引き取ると
桜ちゃんが傷付くのは目に見える。

渡してはいけない。

でも
桜ちゃんのあの嬉しそうな今日の笑顔を見ると

どうすればいいのか
わからない。

「彼女が桜を大切にしてくれたら……僕は何も言いません」

どうやら彼も、私と同じ事を思っているらしい

田辺さんは目を開け
少し怖いような真面目な顔で私の顔を見る。
綺麗な顔だった。
彼の手が真っ直ぐ伸び
私の頬を撫でた。

「桜に対する愛情があるのなら、僕は身を引くけど……」

私は彼の口に指を重ね閉じる。

「わかってる。田辺さんの言いたい事はわかってる。でも、桜ちゃんのあの嬉しそうな顔を見ると、どうしていいのかわからない」

彼は私の手を払い
首を優しくつかんで自分の顔に引く

私は自分の髪が彼にかからないように

唇を重ねた。