隣に座ると
やっと少し笑って私の頭を撫でる。

「……ごめん」
優しい声でささやき
私の肩を抱き寄せる。

「郁美さんとこれからって時に、彼女が出てきて……申し訳ない」

「私はいいよ」

私はゆっくりでいいと思っていた。
ゆっくり時間をかけて
桜ちゃんと向き合っていこうと思ってたから。

「それより、どうして急に元の奥さんが来たの?桜ちゃんを引き取るような話もしてたけど」
そう聞くと
少し田辺さんは黙る。

深入りしちゃいけなかったかな。

「あ、話したくなかったら」

「電話がきました」

見事にふたり声が被り
目を見合わせて微笑んでから、彼は私の手を取り包む。

温かな優しい手。

「『一度会いたい』と、電話がきて。話なんてなかったけど、一応、桜の母親だし、今日会って話を聞いたら……とんでもない事を持ち出してきた」

「とんでもない事?」
彼の指を触りながら
心を落ち着かせようとする私。

「彼女、かなり年上の金持ちの実業家と婚約寸前までいってまして、そこまでいくのが大変だったようですよ。ライバルが多かったけど、まぁ彼女ならどんな手を使ってでも、欲しいモノは落すから」

田辺さんも落とされたんでしょう……とは、言えなかった。

「その相手は情にもろいんでしょうね。彼女は自分の身の上を語ったそうです。僕には言わなかったけど、きっと『私は夫に裏切られ、可愛い娘とも引き裂かれてしまった』と」

「そんな嘘を?」

「目的の為なら嘘でもなんでもつきますよ。人を簡単に裏切る人間ですから」

疲れた声を出す。
沢山裏切られてきたのだろう。

一度は本気で愛してた女性に
そうまで言わせる事をされたのか。

「すると、その男性は言う『かわいそうに。その子を連れておいで、僕と結婚しよう』お金持ちの彼と再婚する条件が桜じゃないでしょうか」

「まさか」

「彼女が自分の口から言ったから、事実ですよ」

信じられない話を簡単に言う。