「おとうさん。チョコが……」
顔をクシャクシャにして
桜ちゃんは彼の首に手を回し、大泣きが止まらない。
「大丈夫だよ」
彼は優しく優しく
桜ちゃんの背中を撫でて
立ち上がり
ユラユラ赤ちゃんをあやすように桜ちゃんを包む。
「大丈夫大丈夫」
桜ちゃんの耳元でささやき
愛しそうに抱きしめる。
しばらくすると
少し落ち着いたようで
「さくらはね、お父さんにチョコをあげたかったの」
まだ涙声だ。
彼はうなずきながら話を聞く。
「お父さんが、だいすきだから」
小さな丸い目に涙が浮かんでいる。
「だいすきなお父さんに、ばれんたいんのチョコをあげたかったの」
もっと泣けそうな桜ちゃん。
こっちも何だか
つられて泣きそうになってると
「ありがとう」って
紀之さんは
桜ちゃんの頬っぺたに付いていたチョコを、ペロリと舐めた。
「桜の手作りチョコ。美味しい」
ニッコリ笑った笑顔は
とっても優しく
とっても幸せそう。
「おとーさん」
「最高に美味しい。お父さんがひとり占め」
やっと桜ちゃんに笑顔が戻る。
紀之さん
あなたは最高のお父さんです。



