隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話


身体が凍りついたように動かない。

桜ちゃんのお母さん

つまり……。

「離婚した妻です」
リコンという言葉のイントネーションが、妙に強く感じてしまう。

「あ……えっと……」
あまりにも急な出会いで心の準備が無い。

っていうのか
桜ちゃんを置いて出て行った人だから
もう
どこにいるのか
わからないって言ってた人だから

まさか……こんな場所で会うなんて。

「今日は帰ってほしい」
田辺さんが強く言う。

「嫌よ。桜に会うまで帰らない」

「勝手な事言うな」

「桜には母親が必要なの」

「いまさら何を言ってるんだ。さんざん話したろ」

「平行線でしょう。丁度いいわ、あなたの恋人にも聞いてもらう」

いつも穏やかな彼の表情が強張っている。
何が?どうかしたの?

「あなた達が結婚して一緒になっても、私はどうでもいいの。ただ、桜は本当の母親が必要でしょう。だから私がもらっていく」

何を言われているのか
よくわからなかった。
いや
理解したくない。
そんなバカな話はない。
何かの間違い?聞き間違い?

頭を殴られた気持ち。