嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~


だから到底エリカの電話に出る勇気はなかった。

しばらく経って“会って話がしたい”というメッセージが送られてきた。

悩んだ挙句返せたのは“仕事が忙しいから無理”という素っ気ない言葉。

これが今のタイミングでなかったら、どんなに嬉しいことだろう。

別れ話をされるとわかっていてのこのこ会いに行けるほど、俺の心は強くない。

エリカを失うことが、こんなに怖いことだとは思わなかった。

それからエリカは事あるごとに連絡してきて、俺を揺さぶり続けていた。

“どうしても話したいことがある”

“少しだけでいいから、時間を作って”

“会いたい”

“お願い”

毎週末必ず送られてくるメッセージに、俺は胸を痛めながら断りの文字を作成する。

逃げても無駄なのに。

なにも解決しないことがわかっているのに、俺は動くことができなかった。

ひたすら先延ばしにして、エリカの思いに向き合うことが出来なかった。

だから俺は、すれ違いが起きていることにすらまだ気づいていない。

ひたすら仕事に打ち込んで、安穏とは程遠い日々を消化していく。

後悔に引き裂かれる瞬間は、もうすぐそこまで迫っていた。