「橘、お前の担当してる店舗軒並み売上伸ばしてるぞ。この調子で頑張れよ」
「ありがとうございます」
「公私ともに順調かぁ。…羨ましいねぇ」
一心不乱に仕事に打ち込んでいる俺の様子を見て、平泉のオヤジが満足そうに月間の売上データを渡してくる。
唯一エリカと俺のことを知っている平泉のオヤジは、俺たちの交際が順調に進んでいると思い込んでいるらしい。
あれからもう一週間。
何事もなかったかのように、日々は過ぎていく。
エリカからは案の定なにもアクションがなくて、このまま俺が連絡を断てば自然消滅も有り得るかもしれないが、どうしても頭を冷やす時間が必要だった。
あんなことをしでかしてしまったんだ。
もう、許してもらえないかもしれない。
だからエリカの方から連絡が来たときは、心臓が止まりそうになった。
俺だけが残った夜のオフィスで鳴り続けるスマホを、ただ息を飲んでジッと見つめる。
出る気には、とてもなれなかった。
まだ俺ですら気持ちの区切りもついていないのに、冷静に話なんて出来るわけがない。
なにより無理やり自分を穢した男を、たった一週間で許せるはずがない。
ただでさえ普段自分から電話なんかしてこないエリカの行動が、指し示すもの。
…それは間違いなく、俺との別れ話だろう。
