「―――…え?」
「ほら、さっきまでレジのところに二人でいたじゃない。…彼女じゃないの?」
奈良橋が指しているのは、おそらくこの店のスタッフのことだろう。
内心ホッとしたのを気取られないように、俺は目を伏せながら手早く商品の値札をスキャンしていた。
「違う。…彼女はただのスタッフだから」
「なんだぁ。仲良さそうだから、てっきり“翔太”の彼女かと思っちゃった。…良かったぁ」
いきなり声を張り上げながら呼び捨てで呼ばれて、俺は顔をしかめる。
おそらく、彼女だと勘違いしたスタッフへの牽制を込めての行為だろう。
早くここから追い返したい俺は、こんなところで言い合うのも時間の無駄だと思い、無視を決め込んだ。
「ねぇねぇ、翔太って今彼女いるの?」
「…別にいないけど」
「本当!?じゃあ私、翔太の彼女になっちゃおっかなぁー」
茶番のような話に作り笑いを浮かべながら付き合ったあと、奈良橋は意気揚々と店を出て行った。
もう…ここに来るのは勘弁して欲しい。
ため息をつきながら、額の辺りを手で覆う。
俺は奈良橋を追い出すことに集中しすぎていて、周りの様子を全然把握しきれていなかった。
待ち望んだ相手が、既に店にいたことを。
今のやり取りをエリカが全部聞いていた事にすら、全く気づいていなかった。
