狭い道をゆっくり進んでいくと、人が住んでいないと思われる家を見つけた。というのも、今時珍しい茅葺きの屋根に、土壁のような一階建ての家だったからである。

それがまた少し不思議な場所に建っているとでも言うか、森の前に建っているのである。つまり、日陰になってしまう。この辺りでならいくらでも日当たりよく建てられるのに、わざわざ日陰になってしまうあたり、人が住んでいないようだった。

なんとなく。そう、なんとなくだったが、その家に興味を惹かれ俺は近付いて行った。

近付いてみると更にその家は汚く感じられた。土壁は至る所が剥げ落ち、蜘蛛の巣さえも見受けられる。

「ごめんくださーい」

人はいないだろうとは思ったが、万が一人がいたらここがどこか聞くことができるだろうと安直に考えていた。
俺は、返事のないことを確認すると、引き戸を開けてみた。

ギギギという音と共に、扉を開くと埃っぽい匂いが鼻をついた。
ようやく目が慣れ、真っ暗な室内が見えるようになってきた。

すると、真っ暗な室内には、半纏のようなものを着て後ろで髪を結った女性が正座していた。

「あ、す、すみません!返事がなかったもので」

しかし、女性からは返事はない。
後ろ姿からはなんとも言えないが、3、40代くらいだろうか。

俺は返事がないがらも、目を凝らして何をしているのかと目を見張った。
ススキ?アシ?
ぼんやりとだが、長い植物が祭壇に飾られていて女性はそれに両手を合わせていた。

「すみませ…

俺がさらに一歩室内に足を踏み入れた時だった。

ガバッ

女性は突如後ろを向いた。その女性の肌は驚くほどに白く、目は完全に血走っていた。

俺は急いで外に出て扉を閉めると、無我夢中で自転車を漕いだ。