最寄駅から学校に向かうまでの、短い通学路。
雪崩れるように駅から学生が出ていく中、私と日向も駅を出る。

―ぴ。

電子の定期を機械に通し、改札を抜ける。

―ぴぴぴぴぴぴぴ。

不意に鳴った、隣の機械を見る。
案の定、日向が改札を通ることが出来ていなかった。

「…あれ?」

きょとん、と首を傾げつつ、もう一度改札に電子定期をタッチする。

―ぴ。

「ちゃんと押さえないからだよ!」

珍しく日向が怒っていたのを見たからか、頼りになるんだなぁと認識を改めていたのだが。
それはちょっと間違っていたかもしれない。

日向と一緒に通学路を歩いていくと、前に見知った背中を見つける。
揺れるポニーテイルの少女と、背中を丸めた少年。

「…琴葉!忍君!」

駒沢琴葉(こまざわ ことは)と、大宮忍(おおみや しのぶ)。
明朗快活、スポーツ万能で姉御肌な琴葉と、メガネっこで女の子っぽい、草食系男子な忍君。

彼女たちは、俗にいう幼馴染だ。

だが、こちらは私や空のような、言葉だけのものではなく…
これぞ少女漫画!とでも言いたくなるべたべたな恋愛をしている幼馴染カップルだ。
思い返すだけで、あの時のひと騒動は…こう、胸にくるものがある。
自分のことではないというのに、だ。

「お、美桜!…と、鳥居か。お早う。」

「お、おはよう…」

「…おはよ。」

一通りの挨拶が済んだところで、琴葉はぐいぐいと日向を押しのけ、私の隣を陣取った。
そして耳に顔を寄せ、ひそひそと小声で話しかけてくる。

「…いつ、付き合いだしたんだ?」

その言葉を聞いて、一瞬考え、琴葉の方を真顔で見返す。
背後に漫画のような効果音を背負ってやろうか。

「…すまん。私が悪かった。」

「分かればいいよ。」

うむ、と頷くと琴葉は少し残念そうにそうか、と呟く。

「美桜と鳥居が付き合ってたなら…ダブルデートとやらが出来ると思ったんだが…」

「けふっ」

「…う?」

その独り言は、もう少し小さい声でもよかったのではなかろうか。
日向にも聞こえたらしく、くるりとこちらを振り返る。

「な、なんでもない。ちゃんと前向いて歩きなよ。」

「…う。」

この時ばかりは、日向がこんな性格でよかったと思わざるを得ない。

「そーゆーのがしたいなら、ほら…」

そういって、私は斜め前を指さした。