―…お出口は、左…
窓から見えるホームは、いつもより少し人が多いようだった。
只でさえ、混んでいるのになぁ。
ふ、と息を吐く。
ぷしゅう、と情けない音を立てて扉が開く。
電車の扉が開くこの音は、大体どの電車でも同じだよな、とつまらないことが頭を過った。
嵐のような人の流れが、目の前を過ぎていく。
サラリーマン風のスーツの男が、目の前を通過した時。
鋭い衝撃が、私の体を突き飛ばした。
「い、った…!」
肩と背中をしこたま電車の座席にぶつけてしまう。
「美桜…!」
慌てた日向がこちらに近づこうとするが、元々の身長の高さや人の波に阻まれて近づくことは出来ない。
大丈夫、と手を振ろうとして、また突き飛ばされる。
「痛い、ってのぉ…!」
突き飛ばしてきたスーツの男を睨み、ぐいと体をずらす。
男も負けずと体をそらした。
「美桜……!大丈夫…?」
そんな攻防戦を繰り広げている間に、日向が人の波をかき分けてきたようだ。
少し息を荒げながら、私の前に立つ。
「ちょ、日向…!そこ、危ないから…!」
ぼんやりとした日向のことだ、すぐに私のように突き飛ばされてしまうのではないか。
そんな不安が頭を過る。
「日向、危ないって…!そこのおっさんがさっきなにしたか、見てたんでしょう…!」
「…美桜を、突き飛ばした。」
珍しく。
本当に珍しく、日向は怒っていた。
こんなこと、満員電車ならいつだってあることなのに。
真顔だというのに怒気をはらませた日向の声に、何故か反論することができない。
この私が、日向に、気圧されているとでもいうのだろうか。
「…俺は、平気だから。」
壁ドンされているような体制のまま、結局日向は、学校の最寄駅までその体勢を崩すことはなかった。