「…すいませんー…」

声をかけられ、ちらりとそちらに目を向ける。
目に入るのは、斜め掛けにされたポーチ、シャツとベルト、カーゴパンツ。
…顔は、もっと上なんだろう。

「…もしもーし?」

こういうところで声をかけられるなんて。
いつもどうしていいかわからないから無視しているんだけど。

「おーい…」

意外に、しつこい。
携帯を見れば、もう待ち合わせの時間だった。

そろそろ日向が来ても、おかしくないのに。

「…美桜?」

自分の名前を呼ばれて、びくっとしてしまう。
なんで声をかけてきた人が?

疑問を感じたまま、顔を上げて―…

「あ…」

そこに立っていたのが、知人であると、やっと気付いた。

「やっぱ、美桜や。」

にこりと笑う、遼。

「なんで、ここ、に…」

動揺のあまり、日本語が不自由になってしまう。

「買い物やー。服とか、いろいろな。」

美桜は?と聞かれ、ようやく言葉が口をつく。

「待ち、合わせ…で。映画、に。」

つっかえながらだが、言いたいことは伝わっているだろう。
そうかー、と笑う彼は、確かに有名な洋服店の袋を手に持っていた。

「にしても、話しかけとんのに無視されるなんてな!」

「だって…知らない人に話しかけられてたら、やだし…」

「知らん人ちゃうやんけ。」

「私服、だったから…」

それもそうか、と頷く彼。

まただ。
また、彼の前ではうまくいかない。