もう、いい加減に放っておいてくれればいいのに。
むしゃくしゃした気持ちのまま、乱暴に靴を地面に叩き付ける。

ぱかんっ、と小気味いい音がして茶色いローファーが地面を転がる。

当然のように私のクラスの下駄箱には靴が整然と並んでいて、空いているのは私の所だけだ。
クラスメイトが、親友たちが楽しげに、私のいない修学旅行の予定を立てているのを考えると、なおのこと苛立つ。

私などいなかったように。
いなくて当然だというように。
もうそこに、私の居場所なんてないというように。

ころりと転がった一組のローファーが、影を帯びた。

片耳のままだったイヤホンをまた乱暴に耳に押し込み、ipodの音量を上げる。
耳が痛くなるような音量で好きなバンドの曲を流しながら上履きを下駄箱に突っ込む。

がかっ、と踵をこする音をさせて靴を履き、鞄を肩にかけて校舎を出る。

中途半端に気遣われるより、無視してくれた方がいいのに。

そんなことを考えるが、実際に無視されればそれはそれでまた苛立つのだろう。
冷静にそう分析できても、気持ちまでもがそううまくはいかない。

なんなのだ、一体!

ざかざかとスカートが翻るのも構わず大股で校門を過ぎる。

―つん。

「ひゃ!?」

背中の一番くすぐったいところをピンポイントで触られ、また変な声が出る。

「…」

背後の誰かが、何かを言う気配がした。
イヤホンを引き抜き、振り返る。

自身の髪の茶色が視界を抜け、そこに立っていたのは。

「…新里、遼……」

なんでフルネームなん?と苦笑されて、慌てて髪を撫でさする。

「…なんて呼んでいいか、よくわかんない…から。」

「にしても、ひゃ、て!」

くくく、と笑われ、恥ずかしくて斜め下を向く。

「…あれ、何か怒っとる?」

「…別に。いつもこんなんだよ。」

ふーん?と納得されていない様子だが。

「何か用?」

そっぽを向きながらそう尋ねると、彼はまるでいたずらっ子のように笑う。

「な、こっから一緒に出掛けん?」