どれくらい、時間が流れただろうか。
なんとなく居心地の悪い空間になってしまった屋上で、未だに片耳のイヤホンから歌を流している私は。
なんとも気まずい思いで、髪をいじる。

何を話したらいいのか。
何も話さないべきなのか。

「…お、そろそろ授業終わったころか。」

遠くで鐘が鳴っていた。
隣の学校の、授業終了の合図なのだろう。

「じゃ、俺はそろそろ帰るわ。またな、”美桜”。」

ひらひら、と片手を振って、あっさりと屋上のフェンスを乗り越えて木に飛び移る。
凄い運動神経なんだな、とどこかどうでもよさそうに考えていた。

「…ばいばい。」

なんで返事をしたのか。
自分でも、よく分からない。

姿が見えなくなって、やっと大きく息を吸うことが出来た。
とてもとても、緊張した。
あんな変な人に話しかけられたのも、会話をしたのも初めてで。

―キーン、コーン…

と、考えている間に授業が終わったようだ。
ふと校庭を見下ろせば、テスト前で午前授業だけだからか、既に帰宅しようとする者がいる。
気が早いなぁ、と思いつつ伸びをした。

―ピンロンロンロンロン♪

と気の抜ける音がして、携帯が震える。
タッチ画面を操作してみれば、琴葉からの連絡だ。

「…もしもし?」

『何をしているんだ美桜!今どこだ!』

耳鳴りがしそうなほどの大声が携帯から響き、顔を顰めて画面を耳から話す。
どうやら無言で居なくなったことを怒っているようだ。

「いつも、のところだけど。今日はもう、帰ろうと」

『馬鹿を言うんじゃない!これから班分けをするんだぞ!?』

「適当に入れてくれればいいよ。あ、そら…み、三神と理紗とは、別で。それだったらどこでも」

『いい加減にしろ!美桜!!』

言葉を遮られ続け、流石にむっとする。
琴葉の電話の背後から、きゃいきゃいとした楽しげな雰囲気が伝わってくることにも、どうにもむしゃくしゃする。

「…どこでもいいって言ってるでしょう!」

『ちょ、おい!美桜、だから』

ぶつりと強制的に通話を終わらせ、ふんと鼻を鳴らす。
どうせ、琴葉も忍君と。
空も、理紗と。
私は一人なのだから。

鞄を掴んで、立ち上がる。
片耳のイヤホンから、気付けば音は消えていた。