戦地へ赴くことが決まった夜、口数少ない和夫が静かに言った。

「祝言の時の約束を守れなくなり、申し訳ありません。
 ですが、私は命ある最後の時まで、あなたの生きるこの国のために戦ってみせます」


泣いてはいけない。
夫がいずれ戦地に赴くことは嫁ぐ前からわかっていたことなのだから。
この人は、強い意志を持って進もうとしているのだから。
泣いてはいけない。

何度自分にそう言い聞かせても、どうしても涙が抑えきれないフミは俯いて自身の膝頭を見つめていた。


「私は、あなたの元に嫁いできたことを……心から、幸せに存じ上げております。
 どうか、どうか……」

途切れ途切れに口にしたフミの言葉は、最後まで紡がれることはなかった。


どうか、どうか

無事に帰ってきてください。



それは、口にしてはいけない言葉だとわかっていた。