「さくら」

リヴィアスが少女の名を呼ぶと少女-さくらは溜息をつき、「さくら、じゃないっていうの」と言い、リヴィアスの手を掴んだ。
急に掴まれてふらふらと少しよろめくが、すぐに体勢を戻してさくらに向って口を開く。

「急に掴むなよ、痛いだろ」

「口開いてる暇あったら食堂いく!ほら、はやくはやく!」

ぐい、っと手を引っ張り続けられ、さくらになすがままに教会のなかにある食堂にむかって連れてかれる。
ほんとこいつには敵わないな、とリヴィアスは一人心の中で苦笑した。

さくらは、ここに来たばかりのリヴィアスに誰も近づかないのにも関わらず、一番最初に話しかけてきた変わり者だった。
何日もあの路上で何も飲まず食わずにいたリヴィアスは栄養失調による体力の衰えでベッドの上で暫く過ごしていた為、余計話しかけづらかったのだろう。
リヴィアス自身、身体のだるさと精神の疲れで誰とも話したくなかった為ちょうどよかったのだが。
それなのに、この紅茶色の髪の少女は気まずさの欠片もなくひょっこりやってきて、その横に連れた同じ髪の紅茶色の髪を持つ小さな少女と共に笑いかけてきたのだ。

『あなたの名前は?』

リヴィアス、と答えると私はさくら、と聞いてもないのにさくらは答えた。
そしてその髪を揺らして、さくらはベッドの傍に座りこむ。

『こっちは妹の蓮華なの』

隣にいる少女の頭を撫でると、さくらはリヴィアスのほうに向きなおし、よろしくね、と再びあの可愛らしい笑顔を浮かべた。
変なやつだな、と首をかしげながらも微笑み返すと、さくらはリヴィアスの髪をがしっとつかんだのだ。
急に髪を掴まれてなにがなんだかわからず混乱していると、

『ぶさいく』

『・・・・・・・・・・・・・は?』

そう言い放たれたのはいい思い出だ。



「(今思うと普通初対面でぶさいくとかいうか・・・・?)」

今更ながら疑問に思いながら、さくらとリヴィアスは無事食堂についた。