〝彼方のことが、好きです〟
その人のことを忘れたくなくて、好きだったことを覚えていたくて、その人の名前を主人公の名前にした。
そう。彼の名前は――彼方。
「沢上遥ってお名前は……?」
確かめられずにはいられなかった。
その名前には、どういった意味が含まれているのか。
「ああ、これはペンネームなんです。山田さんから、僕の本名は伺ってないですか?」
私はゆっくりと首を横に振る。
もう、何も言葉がでてこない。声に出せない。
「〝さわかみ〟っていうのは、かつて仲が良かった4人組それぞれの頭文字をもらって作りました。
そして下の名前は、俺の本名の唯一の類義語だと思ってこれにしたんです」
彼は気づいてるだろうか?
私を見つめるその瞳が、慈愛に満ち溢れていることに。
……まるで、この日をずっと待ち焦がれていた少年のよう。
「あなたの物語を未来で見つけて、たくさんの人に読んでもらう。その役目を果たせたとき、俺はとある約束を守ると決めていました。
大切な人に、別れ際に伝えていたんです。
〝時を超えて、君に会いに行く〟……と」
喉の奥が震えて、言葉にならない何かが、全て溢れ出しそうになった。
「ようやく、今この瞬間、その約束が果たせた」


