「それが目的だったんだよ。ちゃんと、この世界から〝一瀬彼方〟の存在を消していってたんだ。時間がかかったけどね」
やっぱり……。
彼方は着実に、自分のもといた時代に帰る準備を進めたんだ。
私の勘は当たってた。
「でも、最後の最後にうっかりミスしてた。
この時代に持ってきたはずの原稿用紙をここに置きっぱなしにして、持って帰らないといけないのに忘れてたんだ」
それを、私が見つけた。
「未歩、触ったよね?」
彼方より先に見つけて……触れた。
「……うん」
今その色褪せた原稿用紙は、あの机の上で風になびいている。
「やっぱり。だから記憶を消したはずなのに、俺のことを思い出したんだ。この時代にはない、俺との関係性がある唯一のトリガーだから」
予想通りだった。私はあの原稿用紙に触れたから、彼方のことを思い出せたんだ。
なら、彼方にとっては都合が悪くても、私にとっては良かった。本当に。
だってこうして、また彼方に会えたから。


