もっと大切に扱わなきゃいけないのに、私は何度もドンドンと叩いてしまう。
だって、彼方はなんにもわかってない。
私が今日、あてもなく彼方を探し回ったとき、どれだけ後悔していたか……。
ここにある壁を、壊しておけばよかった。
心のドアを強く叩く。
彼方は何も言わず、ただそれを受け止めているだけ。
「私の小説完成したら、1番に読むって約束したくせに……っ!」
ワガママを言う子供みたいに、大声でわんわん泣きながら、文句を言った。
すると、ふいに私の背中に腕がまわった。
その手は優しく赤ちゃんをあやすように、私をなだめる。
人に触れることに慣れてないような、そんな手つきで。
だけどそれは、私を落ち着かせるには十分だった。


