そして、ようやくこの物語の主人公の名前が決まった。



私の物語の主人公になってくれたのは、私が今片想いしている相手の名前。


主人公の名前を好きな人にすることで、私はこの恋を忘れない。



「彼方が、好き」



ずっと言葉にできずにいた想いを、口ずさんでみた。


誰も聞いていないとわかりながらも、ドキドキと音を立てる私の心臓。


ああ、これが好きって証か……。



私は、彼方との思い出を辿るために、今一度まぶたを閉じた。


思い浮かぶ、思い出の数々。


次々と浮かんでは消えていく残像は、どれも夢のひとときだったかのように曖昧だ。


こうしている今も、思い出の一つ一つが消えていってしまう気がして、胸がぎゅっと苦しくなる。