彼女は気づいていた。
自分に残された時間が、残りわずかだということ。
そしてそれは、彼との別れを意味していた。
少女は耐えられず想いが溢れ出て、伝えてしまう。
たとえ君が私を忘れようと……。
「彼方が、好きです」
少女の言葉を書いて、私は筆を止めた。
ハッとしたんだ。
無意識のうちに私は、自分の想いを彼女に重ねて、彼女に言わせていた。
……好きと、相手に面と向かって言えないときのとっておきの想いの伝え方。
これは、口下手で素直になれない私に、ピッタリの方法なのかもしれない。
鈍感っぽそうだから、気づくかどうかもわからないけれど……伝わらなかったら仕方がない。自分の気持ちを伝えたということに、意味がある気がする。
「だから、これでいいや」
私は、原稿に紡いだばかりの彼女のセリフを指で撫でながら、つぶやいた。


