「ダメだった、か……」


ピッと電話を切り、いつもの指定席……小説を書く席に、腰を下ろした。


どうしよう。


確実に、彼方がこの世界から、この時代からいなくなっていってる気がする。


彼方の気配が、あまりに少なすぎる。


彼が残してくれたのは、沙奈の絵に書かれた題名と……この色褪せた原稿用紙くらいだ。



そして、この紙に触れた途端、私は全てを思い出すことができた。これがトリガーとなってくれていたんだと思う。


どんな理由であれ、よかった。


ずっと心の中に空虚さを感じたまま、彼方を忘れて生きていくところだった。


そう思えばいいのだろうけど……思えない。



思えるわけがないよ。


だって、今ここに彼方がいない。


今日、1日どこにもいなかった。