そっと、俺の腕の中で目を閉じる未歩を抱きしめた。




この美しい時代の中で作られた未歩の物語は、魂を宿らせたまま、消滅しないで俺の時代まで残っていた。




未歩の描く小説は、きっともっと、数多くの人々の心を救ってくれるだろう。



……この俺が、未来で救われたように。




それくらい、心が揺さぶられる美しい物語なんだ。




普通で、平凡で、なんの取り柄もない俺だけど……。



それを未来に引き継いでいくのが、俺の使命だと思うんだ。





「さよなら」




告げた瞬間、愛しい彼女が目の前から消えた。



俺を必要だと言ってくれた、未歩が。





「……俺は、間違ったことをしてるのかな」



つぶやいた言葉は、誰に聞かれることもなく、宙の中に溶けていった。