「私、彼方のこと好きだから、バイトと両立して、また絵を描くようになった。
……彼方のお願いを叶えたいって思ったの」



切ない声で、沙奈は言う。



「この絵が完成して、これを彼方に渡せる日がきたら……きっと、この恋を終わらせることができる。
そうしたら、私はちゃんと前を向いて自分の夢を果たせる気がする」


「夢……?」


「私、画家になりたいの」



それは、初めて耳にする言葉だった。



「絵を描いてる時間が1番好き。
心から描きたいと思ったものを、自分の手で紙におさめる瞬間がなによりも幸せ。
だから、この夢を叶えたい」



「…………」



「けど、親は猛反対でさ。そんな将来の安定も見えない職業を選ぶな!って。
もう大げんかしちゃって……半ば強引に、バイトを始めたの」



沙奈の眉尻を下げ、愛おしそうに目の前の完成間近の絵に触れる。


慈しむように、大切に、絵の中の私達を守るように。


それはどこか、届かぬ未来に必死に手を伸ばしてるようにも見えた。



「自立するためなんかじゃない。ホントは、留学したいって思ってる」


「えっ?」


「私、外国に行って絵の勉強をしたいの」



見えない明日を手探りで探し続けるその瞳は……不安に満ち溢れているけれど、迷いがなくて。


今にも消えそうなほどか弱いのに、光輝いていて。



見つめるには、あまりに眩しすぎた。