彼方は立ち尽くして固まってしまった私に、どう接していいかわからないんだろう。


困ったような顔をして、本当に申し訳なさそうな様子がうかがえる。



何か言わなきゃ……。


何か……。



「わ、私こそごめんね。人の棚を勝手にあけるなんて無神経だったよね。ホントにごめん……」



声が震えていた。


いつもみたいに、喋れていたかなんてわからない。



「未歩、ちがくて……」



「帰るね」



彼方の言葉を遮って、私はすぐに背を向け病室の扉の方へと向かった。


そのとき手もとにあった小説は急いでカバンの中にしまい、廊下に飛び出した。



……恥ずかしい。


なにバカなことしてるんだろう、私。



私が彼方に心を許していても、彼方が私に全部を許してくれてるワケないじゃん。


知られたくないことだって、あるに決まってるのに。



「ほんと、バカ……」



病院の廊下。


私の独り言は、ポツリ、静かに空気に溶けていった。