「彼方……」


力の入らない足で、どうにか歩き出した。


目の前で広がる血に、思わず目を背けたくなる。


現実を認めたくなくて、私は救急車を呼ぶことなんてできなかった。



わかってる。


頭ではわかってるのに、体が思うように動かない。


まるで心と体を、別々にされたみたい。




ねぇ、どうして?



「……っ」



どうして……っ。



倒れてる彼方のもとに歩み寄り、ペタリと座り込む。


向かいにいる航は、彼方の手を握っていた。



……その冷たい手を、温めるかのように。



「か、なた……っ」



お願い……。



……いなくならないで……。