「聞かせてよ。未歩の話」
彼方はゆっくりとこちらにやって来て、私の隣の椅子に腰をおろした。
……髪、ちょっとだけ乱れてる。
急いで来てくれたんだ。
「もう一回言うけど、本当にありえないような話だよ?」
「いいって言ってるじゃん。別に未歩に俺を笑わせろって言ってないんだから」
「……そっか」
ならいいのかな、と思えてしまう。
彼方のこの優しい笑みは、不思議と私の緊張を解きほぐしてくれた。
私はゆっくりと目を閉じる。
……何から話そう。
思い出すのは、航と一緒に帰った最初の金曜日。
事故にあいかけた私を、航がかばってくれたあの日。
非現実的で、まるで小説みたいな、未来の話……。
「あのね……」
私はゆっくりと口を開いた。


