蜜ショコラ





防音のきいた音楽室は、生徒たちがあふれる休み時間でさえ静かなものだった。

中で弾くピアノの音は遠くに漏れず、外からの騒音もここに入らず……



そういえば、あの日野崎はどうしてここに来たんだろう。

オレがいることなんて、知ってるはずもなかったし。吹奏学部の活動だって、とっくに終わってる時間だった。



もしかして、またおせっかいにオレを探してた?

クラスの奴らと打ち解けられるようにって、オレを誘おうとでも思ってた?

省吾の弟だから、優しくしてやろうって。省吾の弟だから、仲良くしておこうって、そんな気持ちだった?



そんなの…

そんなの無神経すぎるんだよ。



オレが一人で、どれだけ苦しんでるかもわからないくせに。

学校だけじゃない。家でだって、どこでだって。……野崎のことだって。



悩むことが、ありすぎるんだよ。



それとも

それ全部、隣で聞いてくれる気でもあったのか。