幼稚園で友達が言っていた
ねえ、ちいちゃん
ことだまって知ってる?

ことだま?ことだまってなぁに?

ことだまっていうのはね、言ったことが本当のことになるんだよ

へえー!すごいね!



懐かしい思い出…
子どもの頃を思い出したのってどれくらいぶりだっけ
もう20年も前の記憶だなぁ…
あの頃が懐かしいよ
今は目を開けることもできなくなっちゃった…
千恵美の頬を涙が伝った

椎名千恵美は25歳
OLとして毎日頑張っていた
人並みに恋も楽しみ結婚を誓い合う彼氏もできた
順調で幸せな人生を歩いているように見えた

あの日までは…


キィーッ!
けたたましいブレーキの音
割れて粉々になったガラスがアスファルトに降る音

千恵美はそんな音を聞きながら重力を忘れて青い空を見ていた

そこから先の記憶はない

交通事故で植物状態になった千恵美は唯一自由な頭の中でこれまでの記憶を引き出して一つ一つ大切に見ていた

ことだま、か
今はことだまに助けてもらいたくても声すら出せない

心の中でつぶやいても本当のことになるかしら…

もう一度、彼に抱きつきたい

なにも変わった気配はない

それはそうか… おとぎ話ってわかっていたじゃない
物語にすがるなんて私…
そう思ったとき

「やっと呼び出してくれた!」
「さあ!早く願いを叶えよう!」

耳元で小さい子どものような声がする
えっ?なに?

その瞬間千恵美は暖かい光に包まれたような気がした
身体がどんどん持ち上がる
でも…とっても気持ちいい
このままでいたい

しかしすぐに身体は病院のベッドに横たわりいつもの感覚に戻ってしまった

ああ、もう終わりか… 夢でもいい、もっとああしていたかった

「目を開けて」

声を聞き、ゆっくりと目を開けた

「あっ!千恵美が目を開けた!おーい!皆!」
目を覚ました千恵美は隣にいた愛する彼に抱きしめられ幸せの涙を流した


あの体験はなんだったんだろう
夢ではなかったのかもしれない

そう思う千恵美を病院の窓から二つの小さな影が見守っていた

ー終わりー