「時雨」




湊の通る声が聴こえてきた。

寝起きらしくない声で少し驚いてしまった。




「起きてたの?」


「うん。時雨が起きる前から、時雨を見てた」




言ってくれればいいのに。

寝ているところを見られるのは恥ずかしい。


と思ったけれど、後ろから抱えている湊には私の表情は見えないはずだ。

不思議に思って少しだけ振り向いて問いかけた。




「『時雨を見てた』って、どうやって?」




湊はきょとんとした顔をして、そして笑った。

ふふふ、という声が聞こえそうな顔で。




「腕の中にいる時雨じゃなくて、窓の外の時雨を見てた」




益々わからなくなって私は怪訝な顔をした。

窓の外に私がいるなんてあり得ない。


だって一晩中私を抱えていたのは湊だし、私はすっかり眠ってしまっていた。

朝もやの中の綺麗な景色を見つめだしたのだって、ほんの数分前の話だ。




湊の発言がさっぱりわからず頭の中で色々なことを考えていた。

そんな私の様子が可笑しかったのか、湊はずっとくすくすと笑っていた。