お父さんはママの肩をそっと支えた。
私も圭都の手を強く握り締めた。
この人が、少しでも冷静でいられるように。
沈黙が痛い。
ママが、ママではない人に見える。
私が見たことのない顔。
『女の人』のママの顔。
「快斗の息子、なのね」
よく響く声だと思った。
私達の間に、ぴんとした空気が張り詰めていた。
「はい」
圭都の声は震えていなかった。
どんな気持ちでその声を出しているのかと考えると、私はとても苦しくなった。
圭都が必死に向かい合っているのに、私が動揺してはいけないと思った。
「美佳。とりあえず座って話をしよう」
「・・・そうね」
「二人はそこに座りなさい。今、着替えてくるから」
お父さんは私達をリビングのソファーへ促した。
そのままママを連れてリビングを出て、二人の部屋へ戻って行った。
圭都が真っ直ぐにソファーへ向かう。
私はその手を離さないまま、圭都の隣に腰掛けた。
ソファーに座った圭都はじっとガラスの棚を見つめていた。
その横顔に目線を送っていると、気が付いた圭都が私にそっと笑いかけた。
「大丈夫だ」
圭都の言葉が胸に落ちる。
涙が出そうになるけれど、それをぐっと押し込めた。
辛いのは、私ではないのだから。
「大丈夫だ。湊が、見てる」
そうだね。
湊が見てる。
私達が此処にいて、向き合う理由がある。
そっと圭都に頷いたのとリビングの扉が開かれたのは同時だった。
私達は目線を扉に向けた。