コンロのお鍋の中には筑前煮、フライパンにはイカと大根の煮付け。

カウンターの上にはほうれん草のおひたしとレタス、トマト、豆腐、じゃこが乗せられたサラダがあった。




「いつもながら、ほんと手際いいよね」


「まぁ、高校の頃から料理してるからな。俺、向いてるみたいだし」




そう言って、イカ大根の火を止めて蓋をする。

煮物は火を止めて食べる時に暖めるのが一番なのだとか。

確かに味が染みていて、圭都の煮物はとても美味しい。


前に一度だけ、あまりに料理が上手くて悔しかったこともあり『どうしてそんなに慣れているのか』と聞いたことがある。

圭都は高校の頃から実家を出て一人暮らしをしていたらしく、その頃から料理をするようになったのだそうだ。

料理歴かれこれ十六年、手際もいいはずだ。


圭都が料理上手ということは知っていたけれど、どんな境遇だったのかを聞くことはあまりない。

圭都は自分のことをあまり話さないから。

それに疑問を抱くこともなく、私はそれでいいと思っている。

話したくないことは人には沢山あって、これから少しずつ理解をしていけばいいのだと想っていた。




「いい匂い」


「だろ?悪いな、勝手に台所も食材も使わせてもらって」


「大丈夫だよ。むしろ、私がお願いしたようなものだから」




そう言って、お味噌汁を作る準備をする。

圭都はほとんどの作業を終えたらしく、シンクで洗い物を始めた。