「はい、出来た」


「ありがとう」


「どういたしまして」





差し出されたココアを受け取ってリビングを見つめたまま、二人でキッチンに立っていた。

部屋の中は、雨の気配と湊の気配ばかりが漂っていた。


ココアを静かに啜る。

まだ熱くて少しずつしか飲めないけれど、とても優しい味がした。

ココアを啜る私の姿を見つめて、湊は嬉しそうに笑った。




――――――その顔――――――




そうやって笑う顔が私は大好きだった。

鮮明に想い出せるのは、今より少しあどけない湊の笑顔だった。




「ココアもそうだけど、私が眠れたのはそれだけじゃないよ」


「ん?」




私の言っていることがあまり理解出来なかったらしく、湊は疑問の視線を投げかけてきた。




「私が安心したのは、ココアを渡してくれた湊の顔だよ。優しく笑ってくれた顔。その笑顔でぐっすり眠れたんだよ」




そう言って、湊を見つめる。

そこには出逢った頃と変わらない、優しい湊の顔があった。



長い睫毛も。

色素の薄い目も。

柔らかい髪も。

整った綺麗な顔も。



歳を重ねる毎に、湊はとても綺麗になっていった。