「そういえば。圭都はうちに来たことがあったんだったね」


「あぁ・・・。一度だけ、な」


「・・・そうだったね」




必要以上に我が家に近付かなかったであろう圭都が、どんな気持ちで家まで来たのか。

当時の圭都がどう思っていたのかはわからないけれど。

そのことを知ったら、湊はとても圭都を心配したのだろうな、と想う。



あの頃を想い出すと幸せな気持ちになる。

それと同時に、少しだけ苦しくなった。




「この辺、少し憶えてるぞ。あの公園の桜の木とか」


「そう。もう本当にすぐだよ」


「やっぱりか」


「あの桜の木は、春になるととても綺麗なんだ。小さい頃からの、お気に入り」


「そうか」




もう葉も何もなく雪が積もっている桜。

この桜を見上げる時は、いつも隣に湊がいた。

春も、夏も、秋も、もちろん冬も。

全ての季節を隣で過ごしてきたのだから。




「湊も好きだったろ?」


「・・・うん」


「だろうな」


「何でわかるの?圭都」


「ん?俺も好きだから」




きょとんとした後、ふふふ、と小さな笑いが漏れた。

圭都が緊張をほぐしてくれたのだ、と。

そんな気遣いがとても嬉しかった。